もしないで、台所の方へ降りて行った。
啓吉は所在がないので、梯子段の上り口に腰を降ろして爪を噛んでいたが相変らずしゃっくりは止まらない。
勘三は、勘三でまた腹這いになって、
「俺だって、こんな生活は厭々なンだ」
と大きい声で呶鳴った。
「そうでしょう……貴方が厭だってことは、この二三日、私によく判っていますよッ」
「大きな口を利くなッ」
「そんな事をおっしゃるけれども、ちゃんと判るンですから……貴方の気持ちなんて……」
「うん、それで、頬紅なンぞつけてきげんとっているんだな?」
「あら厭だ、若い女に言うような冗談はいわないで下さい!」
「冗談か、ま、女って奴は、都合のいいようにばっかり理屈をくっつけたがる、奇妙なもンだ。――啓吉! 出てお出でッ」
啓吉は、さっとして立ちあがった。
寛子は、頬をふるわせて坐り込んでいたが、啓吉が、障子の陰から呆んやり出て来ると「何ですかッ、啓吉啓吉といってさ」と、跫音《あしおと》荒く、二階へとんとん上って行った。
叔父のそばへつっ立っていると不思議にしゃっくりが止まった。
「叔母さんはよく怒るねえ」
「僕が来たからだろう?」
勘三は愕いたよ
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