》とか何とかいわなかったかね。――とうとう、水商売が身につかずさ、九州へ行っていったい何をするのかねえ……」

       二十六

「だけど、それは本当でしょうか?」
「本当にも何にも、ほら、これを見て御覧よ。ええ? 拾円札封入してあります。よろしくお願いしますさ。姉さんにすれば、啓坊だって可愛いさ、腹を痛めて産んだ子供だものねえ……」
「可愛いければ何も……」
「連れて行けばいいっていうんだろう。だけど、姉さんにすれば身は一つさ、子供だって可愛いが、連れ添ってみれば御亭主も可愛いとなったら、君はどうする?」
「いくら新しい良人がいいったって、子供は離しませんよ」
「それは、まともな事だよ。だけど、良人がその子供を嫌がったら困るじゃないか」
「そんな無理をいう良人は持ちませんよ」
「そうか、そうすると、さしずめ、俺は無理をいわぬ、いい御亭主だな」
「何ですか、少しばかり懸賞金貰ったと思って厭に鼻息が荒くて……」
「まだ三百円貰えなかったことにこだわっているのだろう? 新しい雑誌社だもの、五拾円でも貰えれば、もって幸福とせにゃならん」
「ああ厭だ厭だ……」
 寛子は、啓吉の方へ見向き
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