先生は陽が縞《しま》になって流れ込んでいる窓に凭れて、目をつぶって対話に聴きとれている。
休みの鐘が高く鳴り響いた。
「先生、田口さんいけませんのよッ」
「さア、鐘が鳴りましたからおしまいにしましょう。では、この次に、リヤ王の対話を空で出来るようによく復習していらっしゃい。それから、書取りもおさらいして来るンですよ」
先生が、袴《はかま》をさばいて教壇へ歩んで行くと、啓吉は、
「起立!」
といって立ち上った。
「礼」
誰か、くすくす笑って首をさげているようだったが、礼が済んでも先生は、つっ立ったまま出て行かなかった。
「田崎さんと、饗庭さんと一寸残って下さい、あとは外へ出て遊ぶこと……」
啓吉と饗庭芳子とが残った。先生は椅子を引き寄せて腰かけながら、
「さア、こっちへいらっしゃい! 先生が変ると、皆の気持ちがゆるむものですけれど、貴方たちは級長さんと副級長さんですから、先生を助けてしっかりして下さらないといけませんよ。饗庭さんも、副級長さんでしょ。黒板なンかにいたずら[#「いたずら」に傍点]しないように……」
啓吉も饗庭芳子も赧くなった。
二十三
「田崎さ
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