。啓吉は、益々小さくなった。田口七郎兵衛は教壇に上って、
――静カニセヨ――
と白墨で黒板に書いた。すると、また笑い声がもり返って来て、風呂屋のように机を叩いて唄うものが出て来た。
女生徒達の方では、
「困るわねえ、男の生徒ってきらいだわ……」
とぐちぐちこぼし始めたが、やがて、饗庭芳子は何を思ったのか、つかつかと教壇に上って、
――男のセイトキライ――
と書いた。
窓が開いて、ひときわ空が高く澄んでいるせいか、黄いろいジャケツを着た饗庭芳子は、輝くように美しく見えた。ガラス越しに、頭髪が繻子《しゅす》のように光っている。
饗庭芳子が教壇から降りようとすると、田口七郎兵衛が教壇へどんどん上って行って、
――オンナノセイトスキ――
と書いた。皆どっと笑った。
「あら、先生よッ!」
「先生がいらっしたよ、饗庭さん早くウ!」
扉がすうっと開いた。
田口七郎兵衛は矢庭に黒板消しをつかんだが間にあわなかった。饗庭芳子はそっと机に帰った。
啓吉は立ちあがると、
「起立!」
と号令をかけた。
白雲頭の田口七郎兵衛は黒板消しを持ったまま不動のしせいをとった。
無雑作に衿
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