白くなっている。啓吉は帰って来た事を叱られそうな、おずおずした目で、
「ううん」
 と言った。
「まア、あンた達なの……金魚のうんこ[#「うんこ」に傍点]みたいにぞろぞろして……」
 玄関には、大きな男の下駄がぬいであった。風呂からあがりたてで桜ン坊のように赤くなった礼子が奥から走って来た。
 貞子は、玄関へつっ立ったまま妹達へ上がれとも言わない。
「寛子姉さんがね、啓坊を連れてって、容子を訊いてくれって言うもんで……」
「そう、じゃ、啓吉置いてらっしゃい、何も、容子なんかあンた達に話す事ないじゃないのさ……」
「怒ってンの?」
 菅子が急にむっとして言った。
「怒ってやしないけど、連れに行くまで置いてくれてもいいじゃないの……姉妹|甲斐《がい》もないねえ」
「何よういってンのウ、湯帰りか何かでのんびりしててさ、自分の子供を妹の所帯へあずけっぱなしで……何もねえ、容子を訊くってのは、男のひとが居るのか居ないのかをさぐりに来たンじゃないわよ」
「まア、いいわよお菅ちゃん!」
 蓮子が急におろおろした。
「放っといてよお蓮ちゃん! いうだけはいわなくちゃア、ええ? 昨夜は啓坊は私のところで
前へ 次へ
全75ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング