うなの? 可愛がられて貧乏すンのいいじゃないか。手鍋をさげて奥山住いってこともある……」
「厭よッ! 可愛がってなンかくれやしないわ、初めのうちだけ……」
「御馳走さま……」
「だめよ、冷やかしちゃア……今年こそは何とか入選させて……少し落ちつきたいっていってるのよ……」
「実際、三石夫妻と来たら、空家ばっかり探してるじゃないか、で、また、お引越しで、このアパート世話しろってンじゃないの? まっぴらよ」
「ひどいわ。姉妹の居るところへおかしくて越せますかッ、……って力んでみたところで仕方がないけれど、本当は、私、三石の所を逃げて来たの……」
「まア!」
「本当よ」
「おどかしちゃ厭だよ、ええ? 後で涼しい顔するンだろう?」
「厭だわ、そンなのじゃないわ。ねえ、落ちつきたいっていうから、私、少しの間だけど、カフェーに勤めたりして、随分つくしたンだけど……留守の間に、別れた奥さんと逢引きなンかしてるんですものねえ」
 啓吉は長い間の習慣で、起き上ると、布団をきちんとたたんだ。二人の叔母の話をそれとなく耳に入れていたが、よくは判らない。只、寛子によく似ている蓮子の顔が、妙に老人臭くなってしま
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