らいた目から湧くように溢れた。
 祭日なのか、花火が遠くで弾けていた。
「中橋さん! 中橋さんお客様ですよッ」
 アパートの管理人が、扉をノックしている。啓吉は、すぐ涙を拭いた。菅子は吃驚《びっくり》人形のように起きあがると、浴衣の寝巻きのまま扉を開けに立った。叔母が出ていった布団の中はぬくぬくして気持ちがいい。
「なアんだ、吃驚するじゃないのッ、何? 朝っぱらから……」
「誰かお客様?」
「お客様? ああお客様よ、いいひと……」
「へえ! 珍しい……」
「莫迦にしてる。だから、不良少女だっていうのさ」
「もういいわよ。不良不良って、どっちが不良さ……部屋へ這入っていいの?」
 蓮子が尋ねて来たのだ。菅子は荒神山の杉の木のような乱れた髪のままで一間のカーテンを開けた。風が静まっている。省線電車が、郊外の方へ向って、いっぱいふくらんではしっている。
「何だッ、啓ちゃんか……」
 啓吉は布団から頭を出して、蓮子に薄く笑って見せた。
「お菅ちゃんは相変らず堅人だ……」
「唐変木《とうへんぼく》っていうンだろう?」
「いいや――この頃、やっぱりお菅ちゃんみたいなのがよくなったわ」
「三石氏、ど
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