のお返事は……あのねえ、渋谷の叔母さんとこへ、四五日、啓ちゃんおあずけしとくんだけど、いいでしょ?」
「学校お休みするの?」
「ああ四五日お休みしたって、啓ちゃんはよく出来るんだから、すぐ追いつくわよ。叔母さんとこでおとなしく出来るウ?」
「ああ」
「叔母さんが色んな事聞いても、判ンないっていっとくのよ。――お前は莫迦《ばか》なところがあるから、すぐお喋《しゃべ》りしてしまいそうだけど、いい? 判った?」
「ああ」
「ああって本当に御返事してンの? 煮えたンだか煮えないンだか訳がわからないよ、啓ちゃんのお返事は……」
小道をはずれると、新開地らしい、道の広い新しい町があって、自動車がひっきりなしに走っていた。啓吉には三和土《たたき》の道が、まるで河のように広く見える。
「さあさ、自動車よ、礼ちゃん眠っちゃ駄目よ、重いじゃないのさア」
啓吉が見上げると、母親の腕の中で、礼子が頭をがくんとおとしていた。耳朶《みみたぶ》に生毛《うぶげ》が光っていて、唇が花のように薄紅く濡れている。啓吉とは似ても似つかない程、母親に似て愛らしかった。――貞子は、小奇麗な自動車を止めた。ふわふわしたクッショ
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