うちへ行くのよ……」
母親の貞子が、華やかな黄いろい帯を締めて、白い洋服の礼子の手をひいて裏口へまわって来た。
二
「あんたみたいなひとは、本当にお父様のお墓の中へでも行ってしまうといいんだよ! 何時でも牡蠣《かき》みたいな白目をむいて一寸どうかすれば、奉公人みたいな泣方をしてさア……ええ? どうしてそんななのかねえ、おじさんだって可愛がれないじゃないか……」
啓吉は知らん顔で母親の後から歩いていた。礼子は母親に抱かれたままで色んなひとりごとを言っている。
「さア、礼子ちゃん、ブウブウに乗りましょうね、自動車よ……」
啓吉は、どの家にも庭があって、花を植えている家や、鶏を飼っている家や、木を植えている家などを、珍しそうに眺めて歩いた。何しろこの一帯は、垣根の貧弱な家が多いので、小道から一目で、色々な家の庭が見られた。
日曜日なので、庭や空地などでは、啓吉の学校友達が沢山遊んでいた。啓吉は、その遊び友達の間を、髪を縮らせた若い母親と歩いていることが恥かしくて、大勢のいる遊び場を通るたび、冷汗の出るような縮まりようで歩いた。
「啓ちゃん!」
「うん?」
「何さ、そ
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