ったけど、ねえ、本当に困るンなら、私が明日連れてって、姉さんの容子、どんな風か見てこようか?」
「拝むわ、そうしてよ、何だか虫が……」
好かないと言おうとしたが、啓吉が、痩せた影をしょんぼり壁に張りつけさせて、叔母達の話を聞いているので流石《さすが》に寛子も言葉を濁した。
「啓坊が一番苦労するね」
菅子が、そういって立ちあがった。朽葉色の靴下が細っそりしていて、啓吉の目に美しく写った。
「じゃ、そろそろ帰ろう……啓坊連れてきましょうか?」
「頼むわ」
寛子は、襯衣のない啓吉が風邪《かぜ》を引くといけないといって、勘三の縮んだ夏襯衣を、啓吉の下着に着せてやった。
「さア、子供のうちは、何でもいいッと、じゃ、二三日してまた来ます。義兄さんによろしく。大金が這入ったら、それこそ安香水でも買ってね」
小麦色の合いの外套を引っかけた菅子の後から、啓吉は、眠た気な目をして、
「さよなら」
といって戸外へ出た。路地には風が出ていた。
十五
風が出ていて、啓吉は、歩くのがおっくうであったが、菅子の後から眠むそうにひょこひょこ歩いた。
渋谷から六つ目だかの高田の馬場で降
前へ
次へ
全75ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング