こっちが厭になるよ。――伸ちゃんもお出でッ、襯衣買ってやるよ」
 勘三は、寛子の容子をうかがっている啓吉の頭を押して伸一郎を背負うと、どんどん路地の外へ出て行った。
「いいかい、叔母さんに何でも黙ってンだよ」
「…………」
「おい、こら、判ったのか、判らンのか?」
「うン、でも、あのお金を使っちゃったんだろう?」
「ううんいいんだよ。叔父さん明日は沢山お金が這入るンだから返しに行くよ。解ったろう……」
 硝子屋の前には、青色で染めた硝子鉢が出ていた。啓吉はそれを指でおさえて、
「これがいい」
 といった。

       十二

 金魚鉢は青くて、薄く透けていて、空へ持ちあげると雲が写っている。啓吉には素晴らしい硝子の壺だ。啓吉はそれを覗き眼鏡にして、拡ろがった空を見ながら、
「ねえ、空はどうしてあんなに青いの?」
「空かい?」
「うん」
「さア、何かで空の青いことを読んだが……大気の中にいる微粒子ってものがさ、水蒸気になってさ、その微粒子の沢山な量が、むくむく重なると、あンなに青い空になるンだと……」
「微粒子って青いものなの?」
「面倒だな、叔父さんだって、本当は覚えてやしないよ。
前へ 次へ
全75ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング