いよ。子供は天真なのだからね……」
「へへッだ! ――だって、啓ちゃんは動物園へ連れてってやっても、猿同士がおんぶしあってる事ちゃんと識ってて、顔を赧《あから》めるンですもの、もう天真じゃないわよ」
「莫迦ッ! 場所を考えて言えよ。――早く啓坊に飯でも食べさせてやりッ」
「白ばくれて、何ですかッ、私が何にも知らないと思って……皆知ってますよ」
「知ってたらなおいいじゃないか、俺が虎になって帰ったからって、何も手前エが知ってるッて威張るこたアないだろう………」
「兎に角いいわよ、後で啓吉に訊いてみますからねえ……」
「啓吉! こんな莫迦な、叔母さんに余計なことをいうと承知しないよ。いいかい、ええ? そのかわり叔父さんが金魚鉢買ってやるよ、欲しいっていったろう……」
「まア、そンな金あったら、伸ちゃんの襟衣《シャツ》を買ってやりますよ。啓吉啓吉なンて何ですか! 弱味があるンでしょう? ――本当に、死んだ義兄さんそっくりで、梟《ふくろう》みたいな目玉……啓ちゃんには罪はないけど、厭になっちゃうわ……」
「あ、あ、秋日和《あきびより》で、菅公なぞはハイキングとしゃれてるのに、朝から夫婦喧嘩か、
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