と、すぐ姉の良人、松山勘三の友人瀬良三石と結婚してしまって、三人の姉達に呆れた女だと叱られてしまった。で、それっきりこの半年ばかり、どの姉達にも御無沙汰してしまって、三石と夫婦気取りで、その日その日をおくっていたのだ。
瀬良三石は、洋画家で、毎年帝展へ二三枚は絵を運ぶのであったが、落選の憂き目を見ること度々で、当選したのは、七八年前に軍鶏《しゃも》の群を描いてパスしたと言っているが、これとても当にはならない。当人はヴァンドンゲンを愛していて、青色の人物をよく描くのだが、勘三に言わせると「空家に住む人物」だと酷評するので、三石は、十七歳の蓮子をかっぱらうと同時に、勘三の所へはちっともやって来なくなった。
「啓坊、泣く奴があるか。お前のお母さんもだらしがないけど、お前もだらしがないぞッ」
勘三は、ひどく空《す》きっ腹で、二三軒回った新聞社が駄目だったし、雨は土砂《どしゃ》降りの吹き流しと来てるし、懐は一文なしの空《から》っけつと、朝から御承知のすけ[#「すけ」に傍点]で出て来ているのだ。で、背に腹はかえられぬの轍《てつ》を踏んで、有楽町のガード横丁まで引っかえして来ると、小八というお
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