いでいる。
四人も姉妹がいて、どれも命細々長らえている生活なのかと思うと、寛子は台所をしていても、はアと溜息が出た。
「ま、仕方がないよ、いまに俺だってこの状態じゃいないし、根気でゆくより仕様がないよ。何しろ文士志望が五万人ってンだから、骨も折れるさ……」
「そんな呑気《のんき》な事いってられないわよ。伸ちゃんだって来年から学校だし、土方でも何でもして働いてくれた方がよっぽどうれしいわ。本当に!」
勘三は大の字になった。啓吉は益々固くなって、散らかっている煙草の銀紙をひろった。
「伸ちゃん! 御飯よウ、伸公ッ」
台所の硝子戸が開いて、癇高い声で、寛子が子供を呼んでいる。
六
雨がしょぼしょぼ降って薄暗い。一足飛びに冬が来たような陽気だ。
「貴方あずかるといったのだから、貴方がこの子を始末して下さい」
それが喧嘩の原因で、勘三はまた原稿を懐にして、
「じゃア、お前の気に入るように、啓坊をお菅君の所へでも置いて来るよ」
と勘三は啓吉を連れて渋谷駅から省線に乗ったのであった。坊主憎けりゃ袈裟《けさ》までという言葉にうなずきながら、電車に揺られていても、勘三は何も
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