「やア、お帰りッ……どんなだった?」
「駄目だよ……」
「だからさ、記者の頭って晴雨にかかわらないから、そンなものを背負って行ったって駄目なものは駄目よ。第一、私が読んだって面白くないンだもの……」
「あんまり人の前で本当のこというなよおい!」
寛子は二階からぎくしゃくした茶餉台を持って降りて、濡れ拭布《ふきん》でごしごし拭くと、茶碗をならべ始めた。
「もう御飯?」
「ええこの人が坐れば御飯よ。どうせ歩きくたびれて、腹の皮が背中へ張りついてるンだから……」
「無茶ばっかりいってるよ。……あ、そいで、さっきの事二三日すれば目鼻がつくんだけど、啓坊をひとつ、あずかってくんないかしら、けっして迷惑かけやしないし、明日にでもなったら、少し位とどけられるから……」
「うん、その話ねえ、姉妹争いするの厭だけど、お互いに所帯を持ってるンじゃないの? 始めてなら兎に角、度々の事だし、私達も近々ここを追っ払われそうだし……」
「たった二三日よ、二三日したらお店を開くのだから、貴女にも手伝いに来て貰えるし……」
「ええだけど、いまさら私が頬紅つけて紅茶運びも出来なかろうし、本当いえば、姉さんの話当になら
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