塗りの飯びつにぎつしりと御飯が詰めこまれてゐる。表の間の税務官吏の話をきれぎれに耳にはさみながら、かうした離れ小島にも、税のとりたてはきびしいものだとうかゞへた。いづこも人の世ではある。
食事のあと、雨のなかを、營林署へ行く。
軒の低いバラックが狹い道をはさんで並び、女や子供は裸足で歩いてゐた。砂地の白い道だつた。鷄は濡れ鼠になつて、家々の前で餌をついばんでゐる。家のすぐ後には、峨々とした南畫風な高い山々が連なり、この山岳を八重嶽の總稱で呼ぶのもうべなるかなと思へた。山が多いせゐか、大小の河川が百二十もあるのださうだ。全島山地で、傾斜が甚だしく、降雨の時は、水嵩が増加して、激流急奔すると聞いた。道のところどころに、長いひげ[#「ひげ」に傍点]をたらしたがじまる[#「がじまる」に傍点]の大樹が繁つてゐる。
木造の營林署では、丁度晝食時だつたせゐか、事務室のなかには誰もゐなかつた。十分ほど待つて、庶務課長の境田氏が、近くの官舍から食事をして戻つて來た。がらんとした應接間に通ると、農林技官の徳川弘氏もはいつて來て、境田さんに紹介された。小林秀雄(評論家)そつくりの風貌である。なつかしい
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