屋久島紀行
林芙美子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)西之表《にしのおもて》港へ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)種子島|時堯《ときたか》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)種子島を※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り
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鹿兒島で、私たちは、四日も船便を待つた。海上が荒れて、船が出ないとなれば、海を前にしてゐながら、どうすることも出來ない。毎日、ほとんど雨が降つた。鹿兒島は母の郷里ではあつたが、室生さんの詩ではないけれども、よしや異土の乞食とならうとも、古里は遠くにありて、想ふものである。
雨の鹿兒島の町を歩いてみた。スケッチブックを探して歩いた。町の屋根の間から、思ひがけなく、大きくせまつて見える櫻島を美しいと見るだけで、私にとつては、鹿兒島の町はすでに他郷であつた。空襲を受けた鹿兒島の町には、昔を想ひ出すよすが[#「よすが」に傍点]の何ものもない氣がした。宿は九州の縣知事が集まるといふので、一日で追はれて、天
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