氣がした。根つからの山好きと見えて、二時頃、この雨中を押して、トロッコで小杉谷へ登るといふことなので、私達も同行させて貰ふことにする。小杉谷までは、トロッコで二時間あまりださうで、山の中はよほど寒いと聞いた。
 屋久島は、營林署の仕事をさしおいては何も語れないほど、道も電氣も、營林署でつくつたものだと聞いた。徳川さんは佐賀の人であり、境田さんは宮崎の人で、根つからの屋久島の人ではないので、屋久島のくはしい話を聞くよすがもなかつた。籐椅子に腰をかけてゐても、風邪で、熱が三十七八度はある樣子で、私は非常に疲れてゐた。たまらなく眠くもあつた。昏々として、躯が沈みこみさうである。雨はねばつくほどの昏さで降りこめてゐる。
 營林署の管轄になる土地は二萬ヘクタールに上るのださうで、すべて官有林で、こゝでは屋久杉が有名である。私は、何も印刷したものがないといふので、こゝでは、メモを出して、樹木の名前を寫させて貰つた。
 すぎ、もみ、つが、ひのきがや、いぬがや、あかまつ、くろまつ、やくたねごよう、こなら、かしは、かしはなら、くぬぎきり、つるまんりよう。
 ようらくつゝじ、いはがらみ、みやましぐれ、なゝ
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