と樹林が深く被さつてゐる。右側の岩壁へ上つて、白い道へ出ると、トラックの停つた家や、バラックの飮屋のやうな家が一軒あつた。道には、黄ろい鷄が六七羽餌をついばんでゐる。吊橋を渡つて、船で教つた安望館と言ふのへ向ふ。吊橋のすぐそばの小高いところに、バラック建ての旅館が眼にとまつた。
急に四圍が暗くなり、雨がぱらつき出した。一ヶ月三十日は雨だと聞いたが、陰氣な雨であつた。宿は※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]送問屋のやうなかまへで、藁包みの積み上げてある荷物の横から、女中の案内で二階へ上つた。板をたゝきつけた床の間にはランプがさがつてゐた。床の間いつぱいに、俳句を書きつけた紙が張りつけてあつた。吊橋と川を見晴せる廊下があり、陰氣な部屋の割合には、見晴しがよかつた。青い景色のなかを、雨がしのつくやうに降り始めた。
朝晝を兼ねた食事を註文した。若く太つた女中は洋服を着てゐた。二階は三部屋つゞきだつたが、表の間には、一緒のはしけ[#「はしけ」に傍点]で來た種子島の税務官吏が來てゐた。二三人で聲高に喋りあつてゐる。同行の中山君と河内君の三人で火鉢を圍み食事をする。オムレツに薄い味噌汁。黒
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