主産物だが、そのほかにも、ポンカン、飛魚、牛馬、海藻類、木炭、松脂、木材、樟腦、皮革といつたものが移出される。私は、甘蔗の刈入れられた荒凉とした畑地を見ただけで、ポンカンの並んでゐる店先を一軒も見なかつた。時々、人家の軒先に、犬の皮の干してあるのを見た。
 島をめぐる道は只一本しかない。それも非常に惡路である。この村では政治に對する氣持ちは無關心とも言へる程度なので、判然りとした黨派はない樣子だつた。淳朴な氣風は、私の見た種子島とは、多少違ふのではないかと思へた。新聞購讀者の表を見たが、南日本が三百六部、朝日が八十七部、毎日が六十八部、讀賣が十三部、アカハタが二部となつてゐた。新聞の普及率は總戸數の二三パーセントに過ぎないさうだ。
 バスで、夕方の五時頃、安房へ戻つて來た。途中幾度か雨にあつた。海はかなりしけ[#「しけ」に傍点]て來た樣子だ。三百五十トンの橘丸が明日は來るだらうといふのだが、このしけ[#「しけ」に傍点]では船は來さうにも思へない。宮の浦までならば、來る可能性があるといふので、私達は思ひきつて、さつきのバスに頼んで、宮の浦まで出てみたいと思つた。四圍は昏くなりかけてゐる。
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