うな淋しさを感じた。種子島に住んでゐる、朝日新聞の通信員の若い日高さんが、暫くかうした島に住んでゐると、狂ほしくなりますと言つた言葉を想ひ出してゐた。急に人戀しい氣持ちになつて來るのだ。こゝからいくらも離れてゐないところに、馬毛島や硫黄島があるのだけれど、俊寛的な孤獨な氣持ちが心を掠める。ごろごろした石ころのなかに、白く風化した珊瑚礁が混つてゐた。花模樣の透し彫りのやうな白い石である。――屋久島のどこかの學校では、PTAが、砂糖の密貿易をして、學校を建てた話も聞いたが、宮の浦あたりには、時々琉球や大島あたりから、船がはいつて來る樣子である。
 嶮岨な山壁を見てゐると、何事もない、人跡絶えた島にも見える。千年近い屋久杉があの山中に亭々とそびえてゐるのだ。海沿ひは年中温暖な土地と見えて、どの樹木も夫婦木のやうに、根元から二本に分れて大きくなつたものが多い。松は本土のやうにひねくれた枝ぶりを持たない。みな空へむかつて、箒のやうに繁つてゐる。村の娘達は、すれちがふたびに、旅人の私達に、丁寧にあいさつをして通り過ぎて行つた。
 尾《を》の間《あひだ》には温泉もあると聞いた。
 屋久島では、砂糖が
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