かゝり、橋の下は、深い谷間になつてゐた。橋を渡るたびに膽を冷した。始めて、村道をバスが走るので、原の學校の子供達が、鷄群のやうに走つて、バスを追ひかけて來た。バスはのろいので、子供が何時までも走つてついて來た。運轉手に聞くと、トラックが通る度、子供は二里でも三里でも自動車にくつついて走つて來るのださうだ。子供はみな裸足だつた。
 何處まで行つても、右手は峨々とした南畫風の山が連なり、高い山は千九百五六十米もあるのださうだ。標高も七百米の小杉谷斫伐所附近では、年平均氣温が十六度に下り、十二月降雪を見、翌年の三月まで、積雪してゐるといふことである。高山が連つてゐるせゐか、一日中に、晴曇雨が交※[#二の字点、1−2−22]來るところである。バスでのろのろ走つてゐても、時々雨がばらつき、風が吹いた。颱風の通路にあるこの屋久島は、一年中豪雨に見舞はれるのだが、村の財政が窮乏のため、治水對策ははかばかしく運んではゐない。五月の飛魚と、甘藷と、甘蔗、それに林業くらゐが、この島の財政である。
 麥生の部落で、二人の乘客は降りて行つた。
 四里あまりのところを、二時間くらゐもかゝつて、やつと、お晝頃、尾
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