ばえ、山うど、鬼あざみ
私は何でも觸つたものをつかむ。
トロッコで凱旋してゐる旅愁。
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眺望は昏くなり、山の雨は時雨のやうに降りかゝる。睡魔がおそつて來る。機關車のなかはガソリン臭くなまあたゝかい。
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灰色の雨 しぶく雨
降る雨 たゞ地に降りそゝぐ雨
ひとに酬いる雨の山道
何處からか都會の風説を傳へて降る雨
かつこう[#「かつこう」に傍点]が啼き
羊齒に光る銀色の雨
鋸型の山の彼方に昏く浮ぶ虹
哀しく心ゆすぶる雨。
[#ここで字下げ終わり]
一時間くらゐして、トロッコはやつと、大忠岳の峠へ着いた。軒のかたむいた山小舍の前でトロッコを降りる。山小舍には誰も住んでゐないのかと思つたら、安房の町で、後のトロッコに乘つた、子供づれの細君が、その山小舍の戸を開けてはいつた。私も雨やどりさせて貰ふ。女の人はまだ若い。すぐ、子供を降して爐に火を焚いてくれた。がらんとした板壁の暗い部屋である。まだ十日ばかり前に宮崎からこゝへ來たばかりで、御主人は石切りを仕事にしてゐる人ださうだ。子供は素朴な木裂に車をつけた玩具で遊んでゐる。
こゝで、一臺のト
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