いしいわねえ。焼餃子もよく喰べたわ。上海つて、どうして、あなに[#「あなに」はママ]おいしいものが沢山あつたんだもう[#「もう」はママ]‥‥。わたし、飽きるほど食べておけばよかつた‥‥。――あゝ、つまらないツ。何もなくてつまらないツ。――中国のひとで、わたし、岡惚れのひと、ゐたンだけど、今頃どうしてるかしら‥‥あゝ、つまンないツ」政子は食卓の下に、かたちのいい脚を投げ出して、やけに団扇をつかつてゐる。
 まだガスが出てゐるので、定子は昨夜の肉湯をあたゝめに立つたが急に峰子に逢ひたくなつてきた。
 姉弟三人が、ちりぢりになつてゐる、いまの生活が淋しかつた。もう少し収入があれば、間借りでもして、三人で水いらずに暮したい‥‥。
 茶の間では、まだ政子が何か饒舌つてゐる。
「定子ちやん、今日は、日曜でせう? 大久保へ一緒にゆかない? ひとりで行くのつまらないわ‥‥」
 軈て、洋服箪笥を開ける音。定子は、いま、ひといきで涙のあふれるところだつたので吻つとして小声でリンゴの唄をくちずさむ。
「ぢやア、定子ちやんも行つていらつしやいね」
 をばさんのお許しが出た。肉湯にうんと胡椒をふりかけて、あゝこ
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