少しばかり紙に包んでおいて、峰子と二人で寝床でも嘗めた。灯火の下でみると、きらきらした光が硝子の屑のやうでもある。
「何しても、働く場所がないと云ふ事は憂欝だねえ。本郷の方も、当分駄目らしいんで弱つてゐる」[#「」」は底本では「。」]
 専造が如何にも弱つてゐる風に髪の毛をむしつた。
「まさか、路ばたでリユツクを下ろして、大学生が店を出すつてことも出来なからうしねえ」
「うん」
「いつそ、どうだい?学校の方をやめてしまつて、本格的に就職運動をしてみたら‥‥」
「生きるといふ事は、まづ難物だなア」
「死ねといつたつて、すぐ死ねもしないしさ‥‥」
「全くだ。僕達のやうな学生のことなンか、世の中は少しも考へてくれやしない。問題が多すぎると云へば多すぎるンだらうが、もつと何とかねえ、――どうしても、五百円はなくちやア勉強は出来ない」
「うん」
「君は、いつたい、サラリーはどの位貰つてるの?」
「まづ、昔の課長級かな」
「ぢやア、大した事もないな」
「まづそんなもンだ、――食にとぼしい生活といふものは、第一に張りがなくなるし、人生に夢がなくなるね、自分が、若いンだか、年寄りなンだか、さつぱり
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