大新地、小新地――ふか川。
あそびの世界。
価い、昼夜十二匁ずつの五つ切り、あるいは昼二歩二朱、夜一分、ひと切り二朱など、さまざま。
栄喜横町、仲町の尾花屋、大新地の大漢楼《だいかんろう》、五明楼《ごめいろう》、百歩楼――屋根船を呼ぶ舟宿の声。
この二枚証文の辰巳七個所の色まちのなかで。
矢倉下――恋慕流し宗七とお多喜の住いは、ここの路地奥にあるのだ。
格子から土間を一跨ぎに、上ったところが六畳ひと間っきりの家で、表看板商売物の三味線が懸かっているだけ、身を秘しての捕物稼業だから、お役風を吹かせる朱総《しゅぶさ》の十手やとり繩などは、壁にぶら下がっていない。
其室《そこ》の、うす赤く陽に染んだ畳に。
惨めに狂っている大次郎の姉、小信を中に挾んで、お山帰りの宗七とお多喜、じっと顔を見合っている。
出しぬけの良人の言葉に、お多喜は愕きの眉を上げて、
「まあ! お前さんはこの女《ひと》を知ってるのかえ。」
それには答えず、小信の横へちょこなんと膝を揃えて坐った宗七は、
「小信様! お見かけするところ、あなたあ変《ひょん》な御様子だがこりゃあまあいったいどうなすったというの
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