山荒れと、見てはならぬ女髪剣のみだれ焼刃を覗いてしまった大次郎と、猿の湯の猿を斬ってその血に走る刀で、弓削法外先生を斃した、煩悩魔祖父江出羽と――果して! 渦紋は擾乱《じょうらん》を呼び、事件は展開を予約して、場面はいま、大江戸に移っているのだ。
大次郎を失った千浪のこころ――。
そしてまた。
七年前に虐君出羽への復讐を誓って、名、金、女の三煩悩を追って三つに散った山の若者のうち。
今。
金を受持った江上佐助は、文珠屋佐吉と名乗る為体の知れない人物となり、もっとも危険な煩悩、おんなの係の有森利七はその女毒に当って意地も甲斐もない巷の遊芸人、恋慕流しの宗七と化し去り――ところが、この宗七、じつは、十手をお預りして黒人《くろうと》仲間に隠れもない捕物名誉だとのこと。
その宗七の留守中に、女房お多喜が富ヶ岡八幡から拾って来た美しい狂女を見て、三国ヶ嶽から帰宅《かえ》って来た宗七、持前の頓狂な大声で、叫んだものだ。
「ややっ! あなたは田万里の――! あの伴、伴大次郎の姉うえ、小信さまでは――。」
やぐら下宗七宅の場
土橋、仲町、おもて櫓、裏やぐら、裾つぎ、網打場、
前へ
次へ
全186ページ中94ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング