煩悩秘文書
林不忘
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)女髪兼安《にょはつかねやす》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三国《みくに》ヶ|嶽《だけ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぞくっ[#「ぞくっ」に傍点]とすらあ!
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深山の巻――女髪兼安《にょはつかねやす》――
猿の湯
岩間に、黄にむらさきに石楠花《しゃくなげ》が咲いて、夕やみが忍び寄っていた。
ちょうど石で畳んだように、満々と湯をたたえた温泉《いでゆ》の池である。屹立《きつりつ》する巌のあいだに湧く天然の野天風呂――両側に迫る山峡を映して、緑の絵の具を溶かしたような湯の色だった。
三国《みくに》ヶ|嶽《だけ》を背にした阿弥陀沢《あみださわ》の自然湯――。
白い湯気が樹の幹に纏《まつ》わる。澄んだ湯壺の隅に、山の端の夕月が影を落していた。
「なんという静かさだろう! まるで大昔のような――。」
千浪は、あたまの中で独り言をいいながら、透きとおる底の平たい小石を、珍しげに数えはじめた。
岸の岩に項《うなじ》を預けて、彼
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