かしくないので、二人はまだこうして、この猿の湯に逗留している。
 なにしろ、手足に七カ所、胸に大きく一太刀、顔は、一ばんひどく、大小無数の斬り傷なので。
 癒りが遅いのである。
 床の間に、法外先生の遺骨を安置し、部屋の真ん中に寝床を敷ききりで、伴大次郎、毎日、寝たり起きたりしている。胸から手、足はもちろん、顔にもすっかり白い布を巻き包んでいるところは、あのいつぞやの白の弥四郎頭巾にそっくり――険しくなった双眼だけが、その繃帯の奥から覗いているのである。
 夜など、この姿の大次郎にあの弥四郎頭巾を思い出して、千浪は、ひとり秘《ひ》そかにぞっとすることが多かった。
 自分さえ、この七年目の会合に来なかったら、いや、じぶんは来ないわけにはいかなかったが、先生や千浪をお伴れしなかったならば、こんなことにはならなかったものを――そう考えると大次郎は、傷痕に錐《きり》を揉《も》み込まれるような思いで、一日に何度となく、床の間の骨壺へ掌を合わせる。
 この自責の念が、夜となく昼となくかれを悩まして、自分で制しきれずに、焦々した気持ちになるのであろう。大次郎はこのごろ、人が変ったように、神経が尖《と
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