にお任せ申すとして、今じゃあ、そのお多喜と一しょに色街から色まちへと、恋慕流しのつれ弾《び》きてえしが[#「しが」に傍点]ねえ渡世で、へえ。」
しきりに頭を掻いている宗七のようすは、装っているのでもなんでもない、こころの底からの巷《まち》の遊芸人である。
泣き出さんばかりの顔で、大次郎はそれをじっと見据え、
「無理もない、女、おんな――最も危険の多い煩悩を受け持ったのだからな。その女の毒気に身も心も汚《けが》れはてて――。」
「へ?」
宗七は、とろんとした眼を上げる。
「あは、あははは、いや、こっちのことじゃ。」大次郎は、自嘲的に笑って、「それでどうして、誓約どおり今日ここへ来る気になられた。」
「それがどうも、あっしにもよくわからねえんで、へえ――来ねえつもりだったんですが、なにかにこう引っ張られるような気もちで、気がついた時あ深川の家を出て、この浴衣のまんま、ふらふら歩いて来ておりやしたんで。へえ、へえ、お多喜の阿魔《あま》あ、今ごろは眼の色を変えて探しておりやしょう。へへへ。」
「有森氏!」
思わず大次郎は、声を励《はげ》ました。
七年ぶりに会った懐しい友の一人は、こん
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