ですけれどねえ、旦那、つまらない約束をしたばかりに、えらい目にあいやしたよ。途中でずっと降られどおしで、へへへへへ、御らんのとおり、ずぶ濡れの、ぬれ鼠の、濡れ仏ってんで。」
大次郎は、はっとしたように、利七を見直した。
たしかに利七には相違ないが、語調といい、顔つきといい、七年間の遊蕩《ゆうとう》に崩れきったらしい安芸人肌――きっとした大次郎の視線を受けても、利七は平気の平左で、がさがさと笹を鳴らして上って来ると、自分から先に中央の三角石の前へ行って、ばらり、裾を下ろして蹲踞《しゃが》みこんだ。葛籠笠をぽんと、傍らの地上へ投げ出して。
「おおしんど! なんてえことを、上方女なら、言うところでげす。さあ旦那、めえりやした。宗七はお約束どおり、立派に山へめえりやした。煮るなと焼くなと、わちきゃお前の心まかせじゃわいのう――とおいでなさいましたかね。」
三角石に腰かけた大次郎は、呆れて相手を見下ろして、
「有森! 七年目だな。」
「へ? なるほど。ここで会うたが七年目、覚悟はよいか、でんでんでん――こりゃあ太棹《ふとざお》で、へへへへへ。」
「利七、真面目に話そうではないか。」
「利七
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