を盛り返して、雨と、風と、屋鳴りと――それのなかに、頭巾をゆさぶる出羽守の狂笑が、さながら猿のそれのように、高く、鋭く、つづいた。
山頂恋慕流し
谷に聳《そび》える露が、ひとつ一つ光り輝いて、まるで、無数の真珠を懸けつらねたよう――。
濡れたみどりが、迫るように息づいて、草と土の香が爽かに立ち昇って、ひがしの空がうす紅いろに色づいて――東天紅《とうてんこう》を告げる鶏の声を聞くべく、あまりに里離れているけれど――雨のなかを、雨を衝いて登る太陽。
あかつき。
七年目の七月七日、明けの七つ刻に、三国ヶ嶽の山上、三国神社の前に、やがて匂やかな朝が来た。
駿、甲、相の三国ざかいが、ここ小さな三角点に集って、ささやかな平地をなしているてっぺんである。
三つの登り口が相会するところ――三国の鎮め三国神社の古びた祠《ほこら》は、この三角の地形の正面にある。
左右は、底ぶかい渓谷で、杉、蝦夷松《えぞまつ》、柏などの大木が、釘を立てたように小さく低く覗かれる。だんだんと畝《うね》りを作って続く樹の海の向うに、大洞、足柄、山伏の山々――その山伏山のむこう側に、今はない田万里の廃
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