衆へ、出羽守は、一喝をぶつけて、
「猿を斬ったがなんで悪い! さほどに思うなら、手厚く葬ってやれ。」
どさりと、猿の屍骸を下男の顔へ投げつけておいて、出羽守は、家臣らの集まっている階段の根本へ。
じろりと川島のようすを見ると、一眼ですべてを知ったらしい。
そのまま、無言で梯子段を上って行くのだ。中之郷と山路が、すぐそれに続く。とっつきから弓削父娘の部屋で。
出羽守、がらり障子を引き開けながら、
「おやじ、くどいようじゃが、また、娘を貰いに来た。」
弥四郎頭巾の中からきらり、つめたい眼がきらめく。
同時に、からだ一つ崩さずに、いま猿の血をなめたばかりの腰間《こし》の利剣が、音もなく、白く伸びて――法外先生は、たちまち肩口を押さえて、堂っ! とそこに倒れていた。
女髪兼安が手にないために[#「手にないために」は底本では「手にないめに」]、法外、急に腕が鈍ったのか、それとも、猿を斬った出羽守の刀が、人間業以上の働きをしたのか。
うっ! と呻いてのけ反る父へ、駈け寄ろうとする千浪は早くも、中之郷、山路の二人に、左右の手を取られて阻《はば》まれていた。
お山荒れは、ふたたび勢い
前へ
次へ
全186ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング