と赤い、小さな物が降って来たので!
皿へ落ちる。起ちかけた膝もとに転がる。髷に引っかかる。頬を打って飛ぶ――十本ばかりの、細い金魚のようなものだ。
「なんだ――!」
と拾い上げて見る。指である。いま斬り離されたばかりの血に染《まみ》れた手の指が十本!
「うぬ!」
酔いもなにも一時に醒めて押っ取り刀、わや、わや、わやと崩れ立った中之郷東馬、山路主計、ほか六、七人の異形の士《さむらい》、なかに、北伝八郎という素っ裸のさむらい、さらしの六尺に一本ぶっこんで、
「与七郎、やられたのかっ! おのれ――!」
まっ先に階段を駈け上ろうとする――と! その頭の上へ落ちて来たのだ。川島与七郎が。血だらけの袖で、死人のように蒼褪《あおざ》めた色で、一段一だんと、弾みを打って。
「どうしたっ!」
総勢取りかこむ。中之郷が、ぐったりしている川島のもとどりを掴んで、顔を引き上げる。と、どうだ! 額部《ひたい》に書いてあるのだ――「酒の肴に進上」と、墨黒ぐろ。
両手の指はすっかり切り離され、血に染んだ摺《す》り古木《こぎ》のような、なんとも異妖なすがた!
与七郎は、虫の息で、
「驚いた。恐ろしくで
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