な装《つく》りだが、皆これ出羽守お気に入りの家臣なので、こうして主君出羽の御微行《おしのび》の供をして、この猿の湯へ湯治に来ているのだった。
 悪遊びと乱行が、骨の髄まで染み込んでいる出羽守は、市井《しせい》無頼《ぶらい》の徒のようになっていて、この側近の臣に対しては、あまり主従の別を置かないのである。
 ぐっと砕《くだ》けてでて、まるで友達扱い。
 それにはまた、この取巻きに要領の好いのばかりが揃っていて、殿のこの気性をすっかり呑み込んで、よくないことにすべて御相伴にあずかるといったふうだから、この傾向はいっそう助長されるばかり、ことに今は、世を忍んで入湯に来ていて、宿にさえ身許を明かしてないのだから、さながら旅の浪人者の一団、出羽守はその中でのいささか頭分と見えるだけだ。
 府中あたりの田舎浪士が、気楽な長逗留という触れ込みで、藤屋でも、この一行の身分は知らないのである。
 ひとつには、今いった、やくざの寄合いのような一同の態度物腰と、もう一つは、祖父江出羽守、寝ても覚めても白の弥四郎頭巾をかぶっていて、ついぞ顔を見せないからで――。
 前の谷の猿の湯へは、必ず真夜中に、そっと一人
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