咆え狂う風の中を葛籠笠を傾けて、と、と、と――大次、たちまち闇黒《やみ》に消えた。
框に立って、伸び上り、屈みこみ、一心にやみの奥をすかし見送っている法外先生父娘。
すると――。
梯子段のうしろが大広間で、すっかり戸障子が除《と》り放してある。
そこの座敷に。
杯盤狼藉《はいばんろうぜき》をきわめて噪《さわ》いでいた、風体人相の好くない浪人者と覚しい七、八人の一団――部屋の隅に、四曲屏風を立てめぐらして、その中に、白衣に白の弥四郎頭巾をかぶり、眼だけ出した痩せぎすの武士が、敷蒲団に寝そべって若侍に肩腰を揉ましているのが、屏風の蔭に斜に覗いて見える。
いま、この一座が、ぴったり鳴りを鎮めて、浪人ものも、弥四郎頭巾も、いっせいに舐廻《なめまわ》すような視線を千浪の立ちすがたに集中《あつめ》ているのを、法外老人もかの女も気がつかなかった。
深山の巻――福面鬼面――
白魔
「もうよい。これ、もう、揉まずともよいと申すに。」
祖父江出羽守は、激しく肩を揺すぶって、按摩をしていた若侍の手を振り切った。
そして、
「二階の娘か。」
と早口に呟いて、むっくり、敷
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