、お山へかかっての三人の眼じるしにと、これも申し合わせのひとつで、はははははは――少し行ったら、着ものを畳んで、裸体《はだか》で登山《のぼ》ります。鍛練《たんれん》の機会ですから。」
「そうまで言うなら――。」
と、階段の中途に立ち停まった法外先生、ふと思いついて、
「千浪、彼刀《あれ》を持ってまいれ。兼安《かねやす》を――大次ちょっと待て。」
千浪は座敷へ引っ返して、床の間の刀架けから、だいぶ佩《は》き古した朱鞘《しゅざや》ごしらえの父の大刀を持って来て、はしご段のなかほどに待っていた法外に渡すと、老人は其刀《それ》を、肩越しに、二、三段下の大次郎へ差し出して、
「さ、守刀だ。これを帯して行け。その、お前の刀は残して、これと脇差と――。」
ななめに振り返って、受け取った大次郎。
「これは千万! ありがたく拝借いたします。」
自分の佩刀《はいとう》と差しかえて、残して行く刀は、千浪の手へ。
千浪はそれを、人形のように両袖に抱き締めて、父娘《おやこ》は土間の上り框《がまち》まで、大次郎を送って出る。
大次郎の腰には、兼安の朱鞘と、かれの蝋ざやの小刀と、異様な一対をなして。
「
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