以来のそちの稽古ぶりを見て、わしはとうから、これは何ごとか大望あって剣を励《はげ》むものと、この眼で睨んでおったぞ。」
 千浪も、私語《ささや》くように、
「それでこそ――でも、相手は一藩のあるじ、なみたいていのことでは――。」
 と、そう思うと、早くもその小さな胸は、夫ときめた大次郎の身を案じ、もう、潰《つい》えんばかりなのだった。
 きっと、形をあらためた大次郎、法外先生に向って、
「しかし、この復讐の儀につきましては、その方策、進行の模様など、いずれとも今しばらくは、不問に付しおかれますよう――。」
「解った。時機の来るまで、何も訊くまい。」法外老人は、千浪へ鋭く、
「そちも、このことは忘れるのだぞ、大次郎のために。よいか。」
「はい。でも、心でそっとお案じ申すことだけは、お許し――。」
「いや、それもならぬ。と言うたところで、これは野暮と申すものかの。ははははは、どうじゃ、大次。」
 赧く笑った大次郎、
「これはどうも――ははは。」
 真顔に返って、
「目下《いま》はひたすら、剣技をみがきます一心――。」
「そのこと! わしも外《よそ》ながら出羽の動静を――いや、言わぬというて
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