から、簪《かんざし》を抜き取った。そして、大次郎の口もとから眼を離さずに、横ざまに片手をさし伸べて、行燈《あんどん》の灯立《ほた》ちを均《な》らした。

     執念三羽烏

 七年前、田万里が亡んだ時、伴大次郎は二十歳《はたち》だった。
 同じ人間でありながら、大名であるがゆえに、力を有《も》っているがために、すべての悪虐非行を押しとおしてゆく――そのありさまを眼《ま》のあたりに見て、彼は、力だ! 力こそ万事を決定すると、若いこころにつよく、深く感じるところあったというのだ。
「力さえあれば、早い話が、出羽守に一矢《いっし》報《むく》いようと思えば、それもできるかもしれない。いや、これは、かりのはなしですが、世間は、力以外にはなにものもないと――。」
「話しちゅうだが。」と法外が、
「その、出羽に一矢報いようというのは、本心ではないのかな。」
 と声を低めて、
「大次郎、ここには、この弓削法外と千浪のほか、誰もおらぬ。打ち明けても仔細ないぞ。」
 大次郎の眼に、異常な光りがきていた。
「は、姉の行方を捜し、祖父江出羽殿のお命をお狙い申しております。」
「よく申した。七年前に出府入門
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