、また――続けい話を。」
 姉を拉《らっ》し去り、父を殺され、母を自害させた祖父江出羽守を、大次郎が秘かに仇とつけ狙うのに、不思議はなかった。
 が、かたきを持つ身が、師の娘を恋し、養子に入り、養父《ちち》の名を襲って道場を受け継ぐ――それでもいいものだろうか。
 討っても討たれても、いずれ千浪に嘆きを見せねばならぬ。
 この大望のために、道場を捨てなければならない日もくる。
 それかといって、処女《おとめ》の純情と、老師の恩愛は、一片の理では断ち切れぬ。なによりも、千浪を求めて止まぬ己が恋ごころ――そこに大次郎の苦しみがあり、また、きょうまでこの秘密を、独り、胸に呑んできたわけなので。
 七年前の七月七日。
 田万里を散って下山する日に。
 当時村内で、大次郎と一ばん仲が好く、幼いころから田万の三人組、三羽烏と言われていた三人の若者があった。
 いずれも、田万の里に古い郷士の倅。
 年齢《とし》も、三人ともそのとき二十歳《はたち》で。
 伴大次郎。
 江上佐助。
 有森利七。
「三国ヶ嶽の頂上に、三国の鎮《しず》めとして三国神社というのがあります。三人|袂《たもと》をわかつ。そこの境
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