っともの一点張り、触らぬ神に崇りなしの扱いだとのこと――出羽守もまた、これをよいことに、田万里の猟くらの惨虐は募る一方でござった――。」
「ふうむ、中良井の髯の塵を払って、幕政の面々、出羽の無道に眼を瞑《つぶ》っておったわけか。」
山奥に住む無力の民は、こうして権勢を被《き》る狂君の蹂躙下《じゅうりんか》に放置されて、まき狩のたびごとに、上は出羽から、下は仲間小者のために、犯される女人、斬り殺されるもの、数知れず――。
そこへ矢つぎ早やに絞るような年貢、納め物の取り立て。
村ぜんたい、すっかり荒らされきって、一家一族は手を引き合って、思いおもいの方角に山を下り、猫の子一ぴき入って残らぬ無人郷。七年まえ。
それから、廃村に桃の花が散り、七年の星霜を閲《けみ》した。
長ばなしを終った伴大次郎、女性のような美しい顔に、きっと眉を吊って、
「はは、ははははは、下らぬ因縁話に、思わず身が入りました。お耳をわずらわして、おそれいります。」
豁然《かつぜん》と哄笑《わら》うと、千浪はまだ打ち解《げ》せぬ面持ち。
「御一家ははて、お故郷《くに》はそういうことになり、ほんとうに、御心中お察し
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