出羽の赤い煩悩毒血が、赤い駕籠を赤く染めて、まるで噴き出すように散った。
 こうして三人の煩悩児は、煩悩の利剣によって、煩悩をもって煩悩を制し、祖父江出羽を仕止めたのだったが――その時から、この兼安の刀面から、女髪は掻き消すように消えたと言われている。出羽の煩悩の血に満足して、煩悩の女髪、刀を離れたのだ。
 あとで、その出羽の死顔から頭巾を外して見ると、彼の顔には恐ろしい刀痕が十字に刻まれていた。これは、小信に傷つけられた時のあとで、彼女が傷を負わしたのは、背中にだけではなかったので、出羽はそれを隠して、その時から弥四郎頭巾を被り、疵を癒しに、あの阿弥陀沢《あみだざわ》の猿の湯へ湯治に行ったのだったが――。この出羽守の疵痕が、大次郎の疵あとと寸分も違わなかったのは、これこそ恐ろしい煩悩の因縁と言うべきであろうか。
 かくして、煩悩は無に帰し、三人はここに、名誉、金、女色の三煩悩を解いた。
 大次郎と千浪は、小信を劬《いた》わって、また江戸への旅に――。
 佐吉と由公は、煩悩小僧の罪滅ぼしに四国巡礼へ――。
 宗七とお多喜は、中仙道を廻って、これも江戸への恋慕流しの夫婦旅。
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