別れる追分で、佐吉が背後に両手を廻して、宗七の前に頭を下げながら、
「約束だ、縛ってくんねえ。」
「何を言ってるんだ。江戸じゃあ煩悩小僧かもしれねえが、これからは四国詣での巡礼さん――それに、この宗七も、もう十手を持つ手はねえ。元気でお札所を廻って来なよ。」
 にっこり別れる三つの旅――また七年後七月七日まで――それまで三人離ればなれに世を送って、やがてはあの田万里へ集まって廃村を興そうと言うので、夕陽を追って、三組が三つの道へ別れて行く。その相良の城下はずれの追分には、何事もなかったように、上り下りの馬子唄と、馬の鈴の音がしゃらん、しゃららんと――。



底本:「一人三人全集1[#「1」はローマ数字、1−13−21]時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」河出書房新社
   1970(昭和45)年1月15日初版発行
入力:川山隆
校正:松永正敏
2008年5月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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