び出したのは、これもかねての手筈によって、佐吉、宗七、由公、お多喜の四人である。
「こん畜生!」
などと低声に呟きながら、ぎりぎりに綱を掛けて縛ってしまう。
と、それを待っていたかのように、今まで境内の物蔭に身をひそめていた伴大次郎が、群集を分けて現れて来た。
寸分違わない二人の白覆面に、群集はあっと驚いたが、その間に大次郎は千浪と並んで駕籠の前に立ったかと思うとたちまち大音声に呼ばわった。
「これ! 祖父江出羽! よっく聞け。田万里《たまざと》の伴大次郎!」
背後にいる佐吉と宗七が、
「有森利七!」
「江上佐助!」
この三人の名乗りを聞いて、駕籠の中の祖父江出羽守、何か叫んで出ようとしたが、綱でしばってある。駕籠が一つ大きく横に揺れた。
千浪も大声に、
「弓削法外の娘千浪――!」
と叫ぶと同時に、伴大次郎の手には女髪兼安が抜き放されていた。この手品駕籠には、かつて使ったことのない女髪兼安を、今こそ彼は抜いたのだ。そして、千浪は早く! と促すより早く、千浪と大次郎と二人、女髪兼安の柄を持ち添えて、真正面から駕籠の真ん中を突き刺した。恐ろしい呻り声が駕籠を揺さぶった。祖父江
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