見つけたのが、大次一行と一緒に城下入りをして、今日もそれとなくこの群集の間に出羽の姿を物色していた文珠屋佐吉、承知の由公、宗七お多喜の連中である。小信は、理由を話して、宿に看視を頼んで残して来ていた。
 あらかじめ手筈ができている。佐吉が群集の中から、さっと手を挙げて、それとなく、ここに祖父江出羽守の来ていることを大次郎に知らせた。
 と! それを見ると大次郎は、素早く群集の中へ飛び込んで、まるで逃げるように、一時、どこへともなく姿を隠してしまったのである。奇怪な大次の行動――。
 有名なこの手品駕籠だから、もう一度見たい人が多い。評判を聞いて、今やって来たばかりの者も尠くないから、群集は承知しないのだ。
「おい、あの白覆面の居合抜きは、どこへ行った。」
「駕籠の女だけじゃあ芸にならねえ。」
「あの侍を探し出せ。」
「白覆面を探し出せ。」
 途方に暮れたように、駕籠のそばに立っている千浪を取り巻いて、群集は、がやがやと大変な騒ぎになった。
 すると、人々の中から、文珠屋佐吉が大声を張り揚げ、
「あ! あの居合使いは、そこにいる。白覆面は、そこにいるじゃねえか。」
 とやにわに、人々の肩
前へ 次へ
全186ページ中179ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング