で、裾を叩いて土下座する。その中を鳥毛の槍、鉄砲、奴《やっこ》の六法。美々しい行列が、鳥居をさして練って行くのだが――。
御代参である。
国家老が殿のかわりに、参詣するので――と言うのは、その太守の駕籠の中にはいっているのは家老で、肝腎の殿様は、お祭りの参詣など、こうして家老に押しつけたまま、自分は例の弥四郎頭巾に面体を包み、白絹の紋付に朱鞘の落し差し、群集のなかに紛れ込んで、かえって行列へ向って軽く頭を下げたりなどしているから、この祖父江の殿様、かなり人を喰っている。
神前白羽の矢
行列を見送った祖父江出羽守は、群集に伍してぶらりぶらりと、境内の見世物の間を歩き廻っているとふと眼についたのは、一段と人を集めている居合抜きである。
近づいて見ると――驚いた。
自分と同じ服装の、あの伴大次郎が、忘れもしない妻の千浪と共に、人を集めて何かしゃべり立てている。その足許に赤く塗った美しい駕籠が置いてあるので。
大次郎の口上よろしくあって、いつもの手品駕籠が始まったが、群集の中から秘かにそれを見物した出羽守は、すっかり度胆を抜かれた。
すると、この、人中の出羽を素早く
前へ
次へ
全186ページ中178ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング