中に挾んで、夫婦連れ弾きの恋慕流しの旅姿。
 この四組は、前後して遠州相良の城下へはいった。
「おう、今度八幡のお祭りに、境内へかかっている浪人の駕籠の手品は、素晴らしい人気だぜ。」
「うんそうだってなあ。美しい女子を駕籠の中へ入れて、めっちゃやたらに刀を突き刺しても、姐さんは疵一つ負わずに、にっこり笑って出て来るっていうじゃねえか。たいしたもんよなあ。」
 と城下の人々の間には大変な人気が湧いたというのは、折よく大次一行をはじめ、三煩悩の一同が城下へはいって四、五日すると、遠州で有名な相良八幡の大祭礼。そこの境内へ、大次と千浪がかかることになったわけで。
 今日は、その祭りの当日である。
 年に一度の八幡の祭りだというので、城下は上を下への浮かれ調子、老も若きも打ち連れて、お宮へ、お宮へ――近郷近在からも、百姓衆が泊りがけで出て来て、境内にはありとあらゆる見世物の小屋がけ、客を呼ぶ声、物売りの叫び、着飾った人々、迷い子、喧嘩、掏摸、怪我人、大変な雑沓。
「下に、下に――! 下におろうっ!」
 先きぶれの声が群集を分ける。太守祖父江出羽守参詣の行列だ。
 庶民はわらわらと左右に崩れ込ん
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