ゃくちゃにしばり上げてしまった。
 細引きを掛けた駕籠は、そのまま大地に立っている。

     木曾の桟橋《かけはし》

「うん、それでよい。大地には種仕掛けはないから、いまこの駕籠へはいった女は、ちゃんと中におる。そうしてこのように、綱を掛けてしまったら、もうどこからも出られぬわけ。念のために、中におるかどうか――。」
 駕籠へ近づいた大次郎が、
「お女中!」
 と呼ばわると、中でこつこつと駕籠の底を叩く音がして、大丈夫千浪ははいっている。
「そこで――。」
 と呻くように言った大次郎は、まず、その三十本ほどの刀の束から一本取り上げたかと思うと、ぎらり鞘を抜き払ってやっという気合いの声もろとも、垂れの横から、駕籠の中央を目がけて、ずぶりと刀を刺した。柄元まで通って、向う側の垂れを破り、刀の斬尖が突き出る。
 あっと群集は驚きの声を揚げたが、中の千浪は、声一つ立てない。と思う間に、大次はつぎつぎに刀を抜き放って、今度は反対側の横からずぶり! また第三の刀は篤龍の屋根からまっすぐにと、一つは棒鼻の下から駕籠を縦に串ざしに、刺し通す。見る間に四、五本の刀が、あらゆる角度から駕籠に刺さって
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