―煩悩小僧の正体を知っているものは、自分一人なのだが、金の煩悩のために盗みを働くとわかっているだけに、やぐら下の宗七も、出羽を首にするまでは、煩悩小僧は挙げられねえ。
だが、その後では?――佐吉も喜んでおいらの繩にかかるとは言っているが、だが、友達の身に、この捕り繩を当てることができようか――。
あわただしい跫音が路地を飛んで来て、格子のそとからお多喜の声、
「ちょいと、お前さん! 大変だよ! 大変だよ! 出て来ておくれってば!」
「何でえ、騒々しい!」
舌打ちをしながらも、やぐら下の宗七、のそりと起ち上がっていた。
居合抜き俄芸人
「さあ、お立ち会い! これだけの観物《みもの》は、お主らが金を山と積んだところで、金輪際《こんりんざい》、拝める代物じゃあない。拙者もこうして大道に立って、芸を切り売りしたくはないのだが、そこがそれ、農工商の上《かみ》などと威張ってみたところで、どうせ同じ人間様だ。食わなきゃあ生きちゃいられねえ。ところが禄を離れてみると、強いようでも弱いのが侍だ。浪々の身で、この大道芸人――芸人の身で被《かぶ》りものは恐れ入るが、これも侍のつまらねえ見
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