いきなり、こっちを払ったのだから――肩先を押えた出羽守、あっと横へすっ飛んで、
「な、何をする。おれは大次郎だぞ。出羽はこいつだ!」
その押えた肩から、花のような赤い血が、白絹の紋付きをさっと染めて。
まんじ乱れ
合言葉でわかってはいるものの、佐吉は瞬間、ほんとにこっちが大次郎で、向うが出羽、自分は早合点から盟友を傷つけたのではなかったかと、彼ははっとした。
が、とたんに 大次郎が、その女髪兼安を振りかぶって、出羽守へ迫った。
が、受け流した出羽、斬り返したその一刀は、見事外されて、踏み応えようとしていた大次の肩をかする。大次郎の肩にも、ぱっと血が吹き出た。
どっちも右の肩をやられて、同じように血が出ている。それが左右に縦横に、飛びちがえての乱戦なので、こうなると佐吉、どれがどれだか、もうさっぱりわからず、したがって、刀をふるって斬りつけようにも、見当がつかない。
脇差を下げて、二人の廻りをうろうろするばかり。
こういう時こそ、例の合言葉と、
「煩!」
と呼ばると、
「悩!」
「悩!」
二人の弥四郎頭巾が、二人一緒に佐吉のほうを向いて大声に答える。
な
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